顔面神経麻痺と顔面けいれんについて
顔面神経麻痺
顔面神経麻痺の60%を占めているベル麻痺は原因不明とされています。しかし、そのうちの多くにウイルス感染が関わっていることがわかっています。
顔面神経麻痺を発症したとき、医療機関を受診して治療を開始するまでの日数によって、その後の回復の経緯が大きく変わってきます。
顔面神経麻痺の患者さんが知りたいことは、「治るのかどうか」に加えて「いつ治るのか」ということではないでしょうか。
その人が治るかどうかはかなり正確に見極めることができます。まぶたが完全に閉じられるかどうか、口がどの程度閉じられるかといったところを診て40点法でスコアをつけるのですが、医師の中でも経験の差があるためその評価点数にばらつきがあり、客観的な評価が得られていないということが課題になっています。
突然に起こる原因不明の顔面神経麻痺のことをベル麻痺(特発性末梢性顔面神経麻痺)と言い、ベルの麻痺による顔面神経麻痺の起こり方は、普通、ある日、鏡を見た時に自分で、あるいは他の人に指摘されて始めて顔の半分がゆがんでいること(非対称)に気付くことから始ります。顔面神経麻痺が起こると、麻痺の起こった側の口もとが下がって、ひどい時には、口の端からよだれや食べている物がこぼれたりします。
普通、顔面神経の麻痺は、起こり始めてから数時間あるいは2、3日の間、進行することが多いようです。ベルの麻痺では顔面神経が、脳より外に出てからの部分で障害を受けますので、その場合、顔の下半分の麻痺だけではなく、麻痺の起こった側の額(ヒタイ)のしわがなくなり、また、その側のマブタを閉じられなくなったりします。
顔面けいれんとは顔面の半分の筋肉が自分の意志とは関係なく、勝手にけいれんする病気のことです。
始めは目の周囲の筋肉から始ることが多く、日時がたつにつれて顔面の半分の全体にひろがって行くこともあります。
目の回りの筋肉だけがけいれんしているような場合、顔面けいれんなのか、あるいは他の病気なのか分かりにくい場合もありますが、目の回りと同時に、口角の外側(唇の端)がけいれんしている場合は、この病気に間違いがありません。
この病気は女性に多いこともあって、美容状の問題で悩む方が多くみられます。顔面けいれんは顔面神経麻痺の後遺症として起こることもありますが、それ以外の原因不明のものが圧倒的に多いようです。
末梢性の顔面神経麻痺のうち約60%がベル麻痺で、15%がハント症候群です。症候性といって顔面麻痺の原因が明らかなものについては、腫瘍や交通事故・転落などの外傷、中耳炎、それらが約10%あります。これら以外にギラン・バレーとか自己免疫(疾患)とか白血病、脳腫瘍、顔面神経鞘腫、聴神経腫瘍など、原因にはさまざまなものがありますが頻度としてはさほど高くありません。
ちなみに、従来はベル麻痺とハント症候群を臨床症状だけで診断していましたが、近年ではハント症候群と同じ帯状疱疹ウイルスの再活性化が原因でありながら、耳介の帯状疱疹や難聴・めまいなどハント症候群の症状を欠くために、臨床的にベル麻痺と分類されているものがあることがわかってきました。
ベル麻痺のもっとも多い原因―単純ヘルペスウイルス
もっとも信頼性の高い発症原因
顔面神経減荷術(がんめんしんけいげんかじゅつ)といって、骨を削って神経の鞘を切り、神経を露出させて減圧する(むくんだ神経にかかる圧力を取り除く)手術があり、手術の際に神経内の液を取ってPCR法(ポリメラーゼ連鎖反応:DNAを増幅する手法)で解析したところ、約7割から単純ヘルペスウイルスのDNAが出ました。このことは1996年に論文として報告し、ベル麻痺の発症原因としてはもっとも信頼性の高い科学的根拠となっています。
重症化の頻度
重症化する頻度というのは、ベル麻痺で約30%、ハント症候群では半分程度です。ですから、早期に適切な治療が必要になります。もともとハント症候群は帯状疱疹ウイルスによるものなので、神経障害性が強い傾向があります。
これに対してベル麻痺の原因でもっとも多いのは単純ヘルペスなのですが、単純ヘルペスウイルスは帯状疱疹ウイルスより神経障害性が弱い傾向があります。ベル麻痺の原因には単純ヘルペスウイルスI型以外のものが含まれていますが、全体としてみると予後はよいといえます。たとえばベル麻痺の自然治癒率は約70%、ハント症候群であれば30%です。一定数の方は自然治癒で時間さえかければ放っておいても治るということになります。したがって、すべての患者さんに本当に治療が必要かといえば、そうではありません。しかしながら、放っておいても治るといっても、治療をしなければ回復が遅くなるのです。そういった面では、やはり麻痺のある患者さんには何らかの治療はしたほうがよいと考えます。
重症度に応じた治療
治療に用いるステロイドや抗ウイルス薬は、多少なりとも副作用がありますし、費用もかかります。すべての患者さんにまったく同じ治療をするのではなく、麻痺の重症度に応じて薬の量を変えるのが基本的な治療です。
顔面神経麻痺の診断
麻痺の重症度を診るのは、第一に電気診断を行えば、ほぼ重症度と麻痺の予後診断ができます。
電気診断は誘発筋電図という検査ですが、麻痺が起こって一週間ほど経って顔面神経を電気刺激して、表情筋の筋電図を測定しますが、麻痺しているといっても、目が半分ぐらい閉じる、左右差があっても頬が少し動くなど、多少なりとも動く状態であればたいていの場合治ります。
ところが、明らかに額にまったく皺ができない、目が閉じない、あるいは小鼻と頬を隔てる鼻唇溝(びしんこう・ほうれい線ともいう)がまったく動かないという方は、先に述べた電気診断が必要になります。
ただし、瞼を下げる筋肉だけは支配している神経が違うので、そこに惑わされるとわかりにくくなることがあります。
お年寄りで初めからまぶたが下がっている人は特にわかりにくい場合があります。
私たちがみて麻痺側の顔がほとんど動かない重症の人でも、その半数程度は麻痺が治ってくるということが経験上わかっています。
ある程度経験を積んだ医師であれば、電気診断をしなくても顔の動きを診るだけで、麻痺が治ることがわかりますし、重症例については治るかどうかはその時点ではわかりませんが、前述したように、顔がまったく動かない人のうち半分は治り、半分は治らないので、そのどちらになるのかという「神経の障害度」を調べるのが電気診断ということになります。
顔面神経麻痺の時に自分でできること
マッサージ
手の指先や手のひらを使って顔面の皮膚と筋肉を数分マッサージします。
これは動かなくなった筋肉をほぐして堅くなるのを防ぐためと,筋肉に刺激を与えることによって萎縮することを防ぐためです。
1日に数回して下さい。あまり広い範囲を同時にしない方がいいでしょう。
温熱療法(暖める)
顔の筋肉の運動がなくなると,筋肉の血流が悪くなります。暖めたタオルを麻痺した側の顔にあてて血液循環をよくしましょう。
お風呂に入ったときも麻痺した顔を暖めるようにします。
運動訓練
顔面の動きが戻り始めた時期から開始します。額にしわを寄せる,目を大きく開く,目を軽く閉じる,まばたきをする,イーと歯を見せる,口をへの字に曲げるなどの運動を鏡を見ながら行います。軽くゆっくり顔を動かして下さい。強く目を閉じたり,力一杯ほほをふくらませるなどの事は良くありません。
日常気をつけること
顔面の動きが戻り始めたときには,しゃべる時,食事をするとき,目を大きく開くように気をつけて下さい。
目を閉じるときに,意識して口を動かさないようにしましょう。目と口が無意識に一緒に動いてしまう後遺症(神経の誤った再生によって生じます)を予防するためです。
リハビリは,顔面全体を動かす刺激療法などはしません。目なら目だけ,口なら口だけをマッサージしたり動かしたりします。
薬物治療
薬物治療には以下の薬剤が用いられます。
- 抗ウイルス薬:ウイルス感染による神経障害に対してウイルスの増殖を抑える。
- ステロイド:神経の炎症と浮腫を抑える。
- ビタミン剤:動物実験ではビタミンB12(メチコバール)が神経鞘のミエリンを再生を促進するという結果が得られている。
抗ウイルス薬は単純ヘルペスウイルスや帯状疱疹ウイルスの増殖を抑えるためには有効ですが、ベル麻痺のすべての患者さんに投与する必要はありません。
しかしながらこれらを正確に鑑別するのは困難なため、麻痺が比較的強い人に対しては抗ウイルス薬を投与するようにしています。
ステロイドに関しては、全身投与より効果的で副作用の少ない方法として鼓室内投与を併用しています。これはステロイドを直接、鼓膜の奥にある鼓室に注入する方法です。顔面神経が腫れて神経ヘルニアや骨欠損を来している部分が鼓室なので、鼓室内に直接ステロイドを注入することで、より局所的にステロイドが作用することが期待できます。糖尿病などのためにステロイドの全身投与が好ましくない場合にも有効であると考えます。
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